
半農半X インタビュー vol.1
【半農半X(はんのうはんエックス)とは】
自分や家族が食べる分を自給するための小規模農業を営みながら、空いた時間をやりたいことに使うライフスタイル。約30年前に提唱されてから少しずつ認知度を高め、「多様性の時代」といわれるいま、ますます注目されている新しい生き方です。

上野 賢一さん PROFILE
豊岡市竹野町在住の39歳。
20歳で神戸の工務店からキャリアをスタート。22歳でJAたじまへ入組後、4年間にわたって地域ブランド米「コウノトリ育むお米」の販路開拓、特産「八代オクラ」のプロデュース、ライフアドバイザーなど、地域の最前線で奔走。 36歳からは地元ホテルで約3年、観光分野を経験。 現在は、これまでに培った「住・農・食」の全スキルを注ぎ込みつつ地域ビジネスに励むかたわら、「自分らしい農業」の実現に向けてトライ中!
竹野をはじめ地域社会全体へのあふれる愛を原動力に、未来を切り拓くため日々奮闘しています。
アグリスタート
今回、”こんな方が新しい農業のやり方でやっておられますよ”ということを多くのみなさまに知っていただき、「農業をやりたいな」「でも農業って難しい。。」そう考えておられる方の気づきだったり、仲間づくりのきっかけになればと、半農半Xのインタビュー企画をスタートすることになりました。上野さんはその第1回です。どうぞよろしくお願いします!
上野さん
こちらこそよろしくお願いします。 基本的にいまは北前館が生活の基盤なっていますので、私自身が思い描いているところにはまだ行ってないというのが正直なところです。 9時から17時のフルタイムですからね。本来なら農業と北前館を半分ずつくらいでできたらベストなんですが、そこは壁でもありますね。
アグリスタート
いま、お仕事と農業の割合はどんな感じですか? 8:2くらいでしょうか?
上野さん
そうですね、農業2ぐらいじゃないでしょうか。
アグリスタート
いい感じですね。
上野さん
はい。 で、まあ休日も、ある程度”この時期に⚪︎⚪︎をしなきゃいけない”っていうのがありますので、そのタイミングで休みを入れてその作業に充ててるという感じですかね。
アグリスタート
北前館さんのお仕事がメインで、フリーな時間を使って農業をされている感じですね。
上野さん
そうですね、いまはそういう状況です。
アグリスタート
やっぱり天気とかベストなタイミングでというのはちょっと悩みどころではありますよね。
上野さん
ありますね、
作業の予定を立てても、当日雨で作業できなかったというのもざらですね。
アグリスタート
いつ頃からいまのスタイルにシフトされましたか?
上野さん
2017年から事業申告をはじめました。
アグリスタート
長い! もう10年くらいになられるんですね。
上野さん
約10年です。 元々うちは農家じゃないんですが、JAたじまに入ったのがきっかけでしたね。
我が家にも祖父が所有していた畑がありましたので、「やっぱり農業をやらなきゃダメだよね」というのは思っていました。祖父の畑は放棄地になっていたので、まず草刈りから始めて。お米や野菜を売ったり、そのほかにもいろんな環境下で農産物を販売する中で、「農業には価値がある」と。「自分たちもやらなきゃ」という思いがつのっていったと思います。

アグリスタート
なるほど。始まるべくして始まった半農半Xという感じがしますが、いま農業ではどんなことをされていますか?
上野さん
お米とピーマンが主ですが、八代オクラも販売用に作付けをはじめました。集落営農にも入って、お手伝いとして入らせていただいているお米が6反、個人が3反ですね。ですので、竹野でやってるのは稲作9反と野菜を少しです。
アグリスタート
結構大きい! 頑張ってますね、すごいな! ピーマンの方は1反くらいですか?
上野さん
いや、ピーマンは1アールですね。
アグリスタート
1畝(せ)。
上野さん
そうそう、1畝です。
アグリスタート
そのような取り組みに関する技術や知識を体得するにしても、農地の確保や農業機械の資材を調達するにしても、相応にお金がかかるかと思います。込み入った話ですが、そのあたりはどのように工面されていますか?
上野さん
調達といえば、家に家庭菜園用のコマメがあったんですよ。 小さな機械。 あれから始まって。 あれでね、畝立てるのすごく大変なんですよ(笑)。 たまらなくなって、JA の農機センターの方にたしか10万円で「畝盛りくん」を購入させていただきました。そこでなんとかピーマンできるようになったという感じですね。 コマメの畝立ては、本当にもうね(笑)
アグリスタート
大変! 思うようにいかない! 手も疲れてきますしね。
上野さん
そうそうそう! トラクターで畝が起こるわけもないし。トラクターないんです、うちは。
アグリスタート
ああ、それは集落営農で?
上野さん
集落営農で借りてますね。 田んぼというか畑用で使ってる管理機は持ってるんですが、すごい昔の代物ですよ。 2万円くらいで買いましたね、あの手で回すヤンマーの。
アグリスタート
ありがとうございます。その反面で、北前館でのお仕事はどのようにされているんでしょうか?
上野さん
北前館では、会計的な部分を少し見させてもらっている感じです。 お金の管理と、あとはお風呂のオープン準備ですね。 清掃やボイラーなど、お客さまに入っていただく準備をするという感じですかね。 あとは交代で店番もしてます。 あ、SNS も少しやっています。
アグリスタート
北前館のお仕事はどのように見つけまられましたか?
現状のバランスまでたどり着くまでの経緯を教えて下さい。
上野さん
もともとJAたじま 時代から、やっぱり竹野町でというかね、自分の地元で何かしたいという思いがすごく強くありました。毎年1回書く異動願い(自己申告書)に、「竹野に行きたい」「竹野で営農指導をやりたい」と。それこそ10年以上ずっと書き続けてたんですが、なかなか叶いませんでした。そんなとき、シーサイドホテルで社長をしていた同級生から「一緒に農業をブランディングできないか」という話をいただき転職しましたが、実現には至らなかったんです。 “それでも竹野で何かしたい”と北前館に相談してみたら、トントン拍子っていう感じでしたね。
アグリスタート
ありがとうございます。 ここでもう1度込み入った話で恐縮ですが、いまの収入面を含め、上野さんの目標と現在地に照らしてどの程度の満足感をお持ちですか?
上野さん
夢を志す方や半農半 X を目指す方にどう聞こえるかはわかりませんが、月収をどうにか改善していかなきゃいけないというところで、いま正直いちばん苦しいですね、僕は。ただ、動かなければ何も生まれないですし、不平を言っても何も変わらないので、とりあえずやることをやるという感じでいまは動いています。

アグリスタート
そのあたり、ご家族の理解や応援が必須なんじゃありませんか?
上野さん
奥さんと子どもが2人いますが、 奥さんの協力があるからできてるところはあると思います。 じゃなかったらおそらく、JAたじまを退職する時点で猛反対されてると思います。
アグリスタート
半農半Xを決断をされたとき、ご家族の反応はいかがでしたか?
上野さん
どちらかといえば放任的な感じだったと思います。JAたじまを辞めるときも「 1度しかない人生なんだから」「やりたいことをやったらいいんじゃない?」と。背中を押してもらった感じですね。
アグリスタート
いざ人生を変えたとき、心の解放というか、いままで見えなかった景色があったんじゃないかと思います。心境の変化であったり、決断してよかったこと、不安なことなど、上野さんのここまでを振り返ってみて思われることはありますか?
上野さん
そうですね、違う環境に自分を置いたからこそ、もう何も怖くないというか、もう次から次に「大丈夫だ」という感じですよ。実際、農業はやればやるだけ自分に返ってきますし、いまの職場は「副業も大いにしてくれ」とのことなので。古物の免許も取って市場で販売もやってます。ほんとうにいろんなことができるんですよ。 つい先日は大阪で作業用重機の免許も取ってきました。農作業はもちろんのこと、これで冬には除雪車を運転できるわけです。 だからどんどん選択肢が広がっているというか、どんなことでもできるというのがいまいちばんの強みじゃないですかね。 企業や組織にいると、絶対にここまでできなかったと思います。
アグリスタート
いろいろな収入の柱を作って、目指す収入に近づけていこうというスタイルですね。
上野さん
そうですね、はい。
アグリスタート
ほんとうに素晴らしいと思います。
上野さん
いま、まさに探求しているって感じです。前職のホテルで、地域課題を考えることをテーマに「探究学習」というカリキュラムを作って販売を行いましたが、 まさかあんな大きい学校さんが何校も来て下さるとは思ってもみなかったですし。しかも農業メインで来たいという学校さんがおられたり。やっぱりね、先人の方々が作られてきた農業が、昨今の”令和の米騒動”ですごくフューチャーされるようになって。農業を学びたい方が増えているっていうのを肌感で感じる中で、僕には2017年からやってきた「10年の絶対値」があるので、そういうところにも話ができるかなというのはあります。まだ成功とは言えないかもしれませんが、現場のリアルを伝えることができればと思いますし、やってきてよかったですよね。

アグリスタート
これから先、どんなふうに農業に取り組んでいきたいですか? 夢や目標を教えて下さい。
上野さん
そうですね。いちばんの夢は、竹野で、見える範囲は自分たちで携わっていくこと、地域がよりよい形で次の世代につながっていくことですね。それがいちばんの夢であり目標です。
アグリスタート
たとえば法人化であったり、面積を大きくしたい、ブランディング、収益、地域の方々との交流など、現時点で色濃く出てるビジョンはありますか?
上野さん
いまはそうですね、 でもほんとうに地域との関係性じゃないでしょうか、やっぱり。 竹野は大規模化に向けて農地集約が決まってまして、これから先の15年ほどで、おそらく農地がどんどん大きく区画整備されていくでしょう。そのときまでに僕がいま入ってる集落営農が法人になって、それを引き受ける流れになってくると思います。 そこで先陣を切って立ってるのが僕なのか、もうちょっと上の人たちなのかはわかりませんが。 でも、僕を含めそういう人たちがね、これから先の竹野の農業を守る道筋を作っていきたいと思ってます。
アグリスタート
素晴らしい! ところで上野さん、農業の繁忙期ってやっぱりあると思うんです。田植えにしても苗出しにしても、ピーマンとかもね、毎日採りに行かないと赤くなってしまったり、水やり、肥料やり、いろいろありますよね。そういうときはどうやりくりされていますか?
上野さん
「早め早めにやる」というのはありますね。いざというときに雨が降ることはどうしてもあるので、やっぱり少し早めに起こしておくとか、畝を立てておくとか、そういうことは意識しなきゃいけないなと思いますね。正直、できていないことも多いですが(汗)。 その件で言うと、僕はあまり家族に手伝ってもらったりしないんですよ。 あまり押し付けてしまうのも悪いかなというのがありますので。自分が好きなことやってるわけですから。 でも母は見かねて、水やりや収穫などを手伝ってくれるようになりました。母は農業とは無縁の人で、畑仕事などは嫌いな人でしたが、最近は自分で好きなものを植えたりして。昔からしたら考えられないんですけどね。
アグリスタート
自分で作ったピーマンとかお米とかって食べられたことあると思うんですけど、どうですか?
どんな味ですか?
上野さん
ほんとうに自分が作ったのがいちばん美味しいんですよ。それはそうですよね。あんな暑い中、大変な思いをして作るとやっぱりね、何とも言えないですね。
アグリスタート
生でも食べられますよね。自分が作ってきたから愛おしくって。本当にこう、すぐ生でもかじって食べたいなとか、夜ね、あのちょっと軽く炙って焼いて食べたりとか、もう最高ですよね!
上野さん
いや、そうですよね。うん。そういった部分はやっぱりいい。いいですよ。
アグリスタート
では、最後の質問です。これから農業を目指す方にもいろいろおられると思うんです。 新規就農、法人就農、雇用就農、親元就農とかね。半農半Xや兼業農家など、そういったところを目指すみなさまにメッセージはありますか?
上野さん
とりあえず、やりたいと思われるならぜひやられるといいと思います。もうほんとうにそれだけですよ。 だって農地は見わたす限りあるわけですから。 僕は田んぼを3反やってますけど、みんな借りてますからね。 もともと放棄地だったり、草刈りだけされてるようなところを貸してもらってるんですよ、無償で。 逆に貸主さんから「ありがとう」と言ってもらえるくらいなんです。

アグリスタート
わかります、そうですよね!
上野さん
はい、農業をされる方にもそれぞれいろんな思いがあると思います。 僕みたいに「地域をもっとよくしたい」という思いがあったり、そこは、JAたじまにいたというのも多少はありますが。 でも、漠然と「農業に興味があるけどどうしたらいいかわからない」という方も、何かね、少しずつやっていくと、そこから新しいコミュニティがどんどん広がっていくんです。それは僕自身すごく感じたことでもあります。 草刈りしてたらご近所の方が話しかけてくれるとか。僕ね、はじめは周りの方々から笑われてたと思うんですよ、こんな歳で農業をしてるのかって。 いまはみんなから「偉いね」って言われますが、 別に僕にはそんな気持ちはさらさらなくて、ただ単にやりたいと思ってやってるだけなんです。 でも、そういう僕のような人たちがいろんな方々と繋がっていくものなんだと思います。僕が集落営農に入らせていただいてるのも、結局はそういう繋がりを巡ってお話があったからです。まずはとりあえずやってみることで、自分が思ってる方向に自然と引っ張られていくような感じがします。 アドバイスになってるかどうかわからないですけど(笑)
アグリスタート
お話の端々から、強い思いといろいろなご苦労を垣間見させていただきました。 上野さん、この度はほんとうにありがとうございました。これからも頑張って下さい。応援しています!
上野さん
ありがとうございます。頑張ります!!

